◆ オーストリア、ウィーン国際空港へ到着、学校が始まるまで。
2021年9月20日単身でオーストリア、ウィーンに出発しました。コロナ禍の各国受け入れ状況や必要書類の確認等、新千歳空港で大変時間がかかり、不安な出発となり、入国に際しても多くの心配がありましたが、何の問題もなく入国することができました。ウィーンへ到着してから学校が始まるまで2週間程度ありましたが、住民票の取得をはじめとして、アパートの賃貸や保険の契約、銀行の口座開設、そしてウィーン国立音大での登録など、やらなければならないことが山積しており、あっという間に時間が過ぎていきました。
学期登録が済んだあとには、新入生向けのZoomでの説明会や、 Buddy Programという新入生同士や先輩方との親睦会などにも参加しました。ドイツ語が分からなくて本当に焦ったのを覚えています。
また、学生ビザの申請は本当に大変でした。
MA35に必要な書類を持っていき、足りないものがあれば指示に従って書類を添付したメールを送るのが一般的だという話を聞いておりましたが、手続きの遅れなどから、取得にはビザ免除で短期滞在が認められる6か月ぎりぎりまでかかってしまいました。
◆ 音大での授業、レッスンの様子
1学期、2学期の授業では、担当の先生とのレッスンに加え、ドイツリートの伴奏法のレッスン、音楽理論や聴音、音楽理解の授業、ハーモニーや響き、民族的な音楽を体で覚える合唱の授業などがあります。一時期新型コロナウイルスの影響でオンラインになった授業もありましたが、実技のレッスンは大学の校舎で行っていたので、ほとんど不自由なく大学生活に集中することができました。
私の担当教授であるJan Jiracek von Arnim 先生とは、毎週1時間半ほどのレッスンと、1か月に1度ほどある門下生全員での授業か月に1度ほどある門下生全員での授業"Klassenstunde Klassenstunde"を通して、大変有意義な時間を過ごさせていただいております。
Jiracek先生はウィーン古典派、特にベートーヴェンの楽曲への造詣が深く、こちらへ来てからはベートーヴェンのソナタを中心にレッスンをしていただいています。初回のレッスンではベートーヴェンのピアノソナタ第26番「告別」を演奏しましたが、先生は何度も"Wiener Tradition"(ウィーンの伝統)という言葉を用いていらっしゃいました。世界中の音楽の原点とも言える古典派音楽の拍子やメロディーライン、和声を、ウィーンの正当な伝統に沿って深く正確に理解できるようになることで、その後の現代へ続く音楽がどのような点で飛びぬけているのかを自分なりに見つけられるようになるのだと思います。
また、先生は楽譜をとにかくシンプルにとらえ、無理にゆがめたり考えすぎたりすることなくありのままを表現することこそが作曲家へのリスペクトであり、なによりも難しいことであることであるとおっしゃっていますす。シンプルさをもって曲に向き合い、その分、音楽の背景や精神性を感じる余裕を残すことで、音楽の流れと体の波長を一致させることが大切と感じました。またそれは自分なりの音楽へ近づけるだけではなく、体を力みから解放し、技術的な面でも良い影響を得られると考えるようになりました。
Klassenstunde では、お互いの演奏に対しコメントを言ったり、時には生徒同士で先生役と生徒役に分かれてレッスンをしたりします。皆、非常にレベルが高く、演奏技術はもちろんのこと、ときにはメトネルやスクリャービンの後期の作品などの難解な曲に対しても、自分の意見をすらすらと述べる能力を持っています。ドイツ語と英語の能力、そして幅広い音楽知識を勉強しなければいけないと感じています。
ドイツリートの伴奏法のレッスンでは、ピアノ、歌の二人の教授からアドバイスをいただくことができます。まずはドイツ語で書かれた詩を自分の語学力を駆使して理解に努め、それを室内楽的な要素と合体させること、さらには1人1人異なる歌手の独特な息遣いを瞬時に感じ取る力を求められます。
1学期ではシューマンのリーダークライス op.39 を勉強しましたが、シューマン独特の拍のズレが難しくて大変苦戦しました。特に5番目の"Mondnacht"(月夜)という曲は予想外のピアノの音域の幅と歌のフレーズの長さが特徴的で、歌手にとっても非常に難しい曲だと、バリトン歌手の Kölbl 先生もおっしゃっておりました。この曲については僕にも歌のレッスンをしていただきました。大変貴重な経験です。
日々の授業では、日本の音大と比べればまだ易しい内容がほとんどですが、Brahms のレクイエムについての分析をしたり、自分の国の民族音楽について自分の意見を述べたりするなど、自主的なアプローチが必要な課題が出ることがあります。次の学期からは音楽史や和声の授業などが始まり、より難しくなっていきそうです。
◆ ウィーンでの生活
ウィーンでは楽友協会ホールやコンツェルトハウスなどで世界的な奏者の名演を頻繁に聞くことができます。グレゴリー・ソコロフ、ダニエル・トリフォノフ、アンドラーシュ・シフ、レイブ・オヴェ・アンスネス、ラン・ラン、福間洸太朗さん、内田光子さんなど、まさに世界的な演奏家といわれる方たちの技術と音楽性を真近に見て学ぶことができます。札幌は機会が少ないので、留学先をウィーンにしてよかったと思うことの一つです。どの演奏家も宇宙的ではありますが、普段 Jiracek 先生から教えていただいているようなことの積み重ねから生み出されていることを実感することもあります。
Buddy Programという新入生向けの親睦会では、海外特にヨーロッパ各国からの先輩たちとお話しすることができます。ピアノの世界だけではなく、オーケストラやオペラの世界での夢や希望など興味深いお話を伺いました。先日はこのメンバーで映画、 "第三の男"で有名なプラーターという遊園地に行きました。とても視野が広くなったのを感じます。
3学期が始まるまでドイツ語の検定B1を取得することが必須条件です。現在は楽友協会ホールの隣にあるドイツ語学校に通っていますが、ここもいろいろな分野のいろんな国の方々と一緒で、とても楽しいです。積極的に相手と会話をし、意見を交わす場で自身の意見を伝えようとする努力を続け、もっと自由に言語を使えるようになりたいです。
ウィーン国立音大は素晴らしい環境です。日本人としての誇りをもって、ヨーロッパの文化と街並みにどっぷりと浸かって、本物の音楽家を目指します!今後日本でお世話になった先生方や皆様に、ウィーンで学んだことを披露できたらうれしいです!