レポート:第1回「PianoWeek」へ当財団奨学生3名を派遣(飯田円さん・坂下幸太郎さん・原田佐和子さん)

2026年8月4日火曜日

2026年7月11日から16日にかけて韓国・ソウルで行われたアカデミー、第1回「Korea-Japan-China PianoWeek」に、当財団奨学生3名(飯田円さん・坂下幸太郎さん・原田佐和子さん)を派遣しました。会場はソウル教育大学の広大なキャンパスです。

このイベントは、2024年ピティナ海外招聘審査員・2025年福田靖子賞選考会審査員で、韓国で長く暮らし、ソウル国立大学教授を務めるピアニストのアヴィラム・ライヒェルト先生が芸術監督となり、SoraboartsのマネージャーAngela Kimさんがディレクターを務めるアカデミーで、韓国・中国・日本から学生と教授陣を招き、3か国のピアノを学ぶ10代~20代前半の学生たちの交流を目的としています。ゲスト講師には、日本でもおなじみのジャック・ルヴィエ先生(ザルツブルク音楽大学教授)と、初日のみシン・スジョン先生(ソウル国立大学名誉教授、チョ・ソンジンの師)が招かれました。日本からは3人のほか、2025年ピティナ特級グランプリの稲沢朋華さんほか2名、合計6名が参加し、中国からの3名、韓国からの26名と共にピアノを学びました。

レッスンは、アヴィラム・ライヒェルト先生、ジャック・ルヴィエ先生の計3コマをメインに、シン・スジョン先生のショートレッスンも含めて、じっくりと持参したレパートリーに向き合います。期間中の3日間は、毎晩スチューデント・コンサートが行われ、19時と20時半に2部構成で、希望者が各自のレパートリーを披露します。同じ作品でも奏者のバックグランドが異なれば、別の魅力的な表現が生まれ、音楽が生み出す多彩な表現の可能性に、それぞれ深く感じ入るところがあったようでした。また、最終日には「コンペティション」として、小学生、中高生、大学生以上の3部門に分かれて28名がエントリー。1週間弱の間に学んだ成果を存分に発揮しました。日本からのピアニストたちにも、中国や韓国の教授陣から、そのハイレベルな演奏に驚きの喝采が送られました。

期間中、練習室やコンサート、食事の時間、そしてクロージングセレモニーやパーティで、生徒たちはそれぞれ積極的に交流し、時に同じ苦労や悩みを分かち合い、そして音楽を通じて国境を越えて繋がっていく喜びを味わいました。3か国の若いピアニストたちが集まって学ぶという有意義な機会に、派遣した奨学生たちもおおいに感じ取る部分があったようです。3人が豊かな感性で今回の経験を受け止めて、さらに高い意欲をもって音楽の学習に取り組むことを願っています。

★ 奨学生の感想

飯田円さん(第12期奨学生、京都堀川音楽高等学校2年)

初めての海外でのピアノアカデミー参加は、私にとって、想像していたものの何倍も大きな経験となりました。

マスタークラスでは常に新しい発見があり、また、時代をさかのぼり今は亡き作曲家のアイデアに直接つながることができるような教えを受けることもできました。レッスンでは通訳をほとんど介さなかったため、先生方との距離が近く感じられ、また先生方は、音楽に対する熱い愛をそのまま私たちに放つように、熱心に、親身に語りかけてくださいました。

大学内や寮での生活、食事などでは文化や国民性の違いを感じることも多く、目にするものすべて、経験する物事の一つ一つがどれも面白くエキサイティングでした。しかし、6日間の滞在中に、4回のレッスン、3夜連続のコンサート出演、最終日にはコンペといった盛りだくさんのプログラム。あまり早い段階から参加を決めていたわけではなかったので、もともと考えていた夏の予定や段取りを大きく変更する必要があり、出発直前までとても忙しく睡眠不足が重なっていたことに加え、曲の準備が間に合っていないことに対する不安や焦りが募っていく中でも、容赦なく押し寄せる「次の本番」に圧倒され、滞在2日目の夜からだんだん指が回らなくなり、最終コンサートの直前にはとうとう、全曲弾けていたはずの変奏曲のバリエーションがどれも弾けなくなってしまうという大スランプに陥ってしまいました。

でも、そんな私を救ってくれたのもやはり音楽であり、また、同じように音楽を愛する仲間たちの存在でした。1日目と2日目のコンサートでは出演順の都合上、あまり他の人の演奏を聴くことができなかったのですが、3日目は出番が遅く、また会場も変わったため、たくさんの人の演奏をすぐ目の前で聴くことができました。まさに、身体の使い方から表情、息遣いまで、遠くからでは気づくことのできない部分を視覚的・感覚的に捉えられる距離でした。そうやって演奏に接することで、その人がどう考えて、どう感じて音と向き合っているのかを目の当たりにすることができました。そのエネルギーに私は勇気をもらうことができ、突然、また弾けるようになりました。

コンサートが終わると、少しずつ打ち解けてきた新しい友人たちが声をかけに来てくれ、国や年齢を越えて、互いの演奏をたたえ合う時間が訪れました。ランチやディナーの時間には、仲良くなった韓国の友達と「好きな作曲家は?」「今日のコンサートでは何弾くの?」と会話をする時間が楽しかったです。最初はどう話しかけたらいいのか戸惑ってしまっていたのですが、韓国料理の食べ方を教えてくれたり、特製ソースを注文してくれたり、覚えたての日本語で話しかけてくれたり。みんなとても優しかったです。

最終日のコンペの後にようやく解放されてカフェへ出かけたときの会話の内容も、やはり音楽について。「練習の中で心がけていることは?」「音づくりのために意識していることは?」普段彼らがどういうことを考えて音楽と向き合っているのか、音楽をする上で自分が大事にしていること、それぞれのこだわりや意見を聞いたり話したりした時間がとても印象に残っています。

この滞在中、初めてといってよいくらい大きな危機も経験しましたが、ふり返ってみればまた戻りたいと思えるほど、すべてがとんでもなく面白かった、最高の日々でした。この素晴らしい機会を与えてくださったSorabolartsおよび運営の皆さま、ライヒェルト先生、ルヴィエ先生、シン先生および関わってくださったすべての先生方、そしてこの冒険に飛び込むことを後押しし、手厚くサポートしてくださった福田靖子賞基金の皆さまに心より感謝いたします。

坂下幸太郎さん(第12期奨学生、愛知県立明和高校音楽科2年)

今回が初めての海外で、不安もありましたが、とても貴重な経験になりました。韓国の学生の演奏に大きな刺激を受け、自分自身の練習への取り組み方やピアノに対する姿勢を改めて見つめ直すきっかけとなりました。また、多くの学生と友人になることができ、とても嬉しく思っています。このような素晴らしい機会を与えてくださったことに、心から感謝しています。

原田佐和子さん(第12期奨学生、桐朋女子高等学校音楽科卒・米オバーリン音楽院留学予定)

私はこの夏、福田靖子賞基金のご支援を受け、7月11日から16日まで韓国・ソウルで開催された「Korea-Japan-China PianoWeek 2026」に参加しました。

私が初めてライヒェルト先生のマスタークラスを受講したのは、2025年の福田靖子賞選考会でした。先生のお人柄はもちろん、ユーモアあふれる例え話を交えながら音楽を伝えてくださるご指導がとても印象的でした。また、音楽への向き合い方や姿勢にも深く感銘を受け、ぜひもう一度先生のご指導を受けたいと思うようになりました。

そのような中でPianoWeekへのお誘いをいただき、参加したいという気持ちはすぐに固まりました。実は帰国翌日の7月17日には東京でソロコンサートへの出演を控えていたため、日程的にはかなり悩みましたが、ライヒェルト先生から「本番前に作品を磨き、新しい視点を得る絶好の機会になる」と背中を押していただき、人生初めての韓国への一人旅を決意しました。

初日は道に迷いながらようやく会場へ到着し、不安でいっぱいでしたが、その気持ちはすぐに吹き飛びました。参加登録を終えると、それぞれに練習室が割り当てられ、翌日から始まる一週間への期待が一気に高まりました。その期待どおり、翌日からは、マスタークラスで学んだことをすぐに練習室で試し、その成果を夜のStudent Concertで演奏するという充実した毎日が始まりました。学びと実践を繰り返せる環境は非常に密度が濃く、音楽と向き合うことだけに集中できる贅沢な一週間でした。

今回のPianoWeekでは多くのものを得ることができましたが、特に印象に残っていることは三つあります。

一つ目は、自分らしさを自分自身で認められるようになったことです。

ライヒェルト先生のマスタークラスでは、技術的な課題を指摘するだけでなく、演奏者が表現したいことをまず受け止め、その上で作品の背景や様式に基づいた理由を示しながら、より説得力のある表現へと導いてくださいました。ショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」でも、例えば、マズルカ的な性格が現れる場面では、その特徴を踏まえてトリルの弾き方を見直すなど、表現の一つひとつに明確な理由を示してくださいました。そのレッスンを通して、作曲家の意図や楽譜に忠実であることと、自分らしい表現をすることは決して矛盾するものではなく、両立できるのだと実感しました。以来、自分の表現を以前よりも素直に音楽へ託せるようになった気がしています。

また、ルヴィエ先生のレッスンでは、初めて取り組んだドビュッシーの「版画」より「塔」と「グラナダの夕べ」をご指導いただきました。均等なタッチから生まれる色彩感について、先生ご自身の演奏を交えながら実演してくださり、その響きの変化を耳で体感できたことは非常に印象深く、ドビュッシーという音楽への見方が大きく広がる経験となりました。

二つ目は、一週間を共に過ごしたルームメイトとの出会いです。

今回、稲沢朋華さんと一週間同じ部屋で生活しました。日本から音楽ファイルを持参し忘れて困っていたときには、一緒にDAISOまで買い物に付き合ってくださるなど、いつも自然に気遣ってくださいました。一方で、部屋では物真似やユーモアで笑わせてくださり、緊張感の続く毎日の中で、その時間が大きな支えになっていました。

以前、恩師より「演奏にはその人が出る。性格も考え方も。」と言われたことがあります。今回、稲沢さんの温かい人柄と音楽に向き合う誠実な姿勢に触れ、その言葉の意味を改めて実感しました。そして気付けば私自身も、もっと誠実に音楽と向き合いたいという気持ちが自然と芽生えていました。

三つ目は、韓国・中国・日本の仲間との交流でした。

実は最初の二日間ほどは、なかなか打ち解けることができませんでした。そのためStudent Concertでは、自分がどう見られているかを意識し過ぎてしまい、これまで経験したことがないほど速いテンポで演奏してしまい、自分の不甲斐なさに落ち込んでしまいました。

しかし、思い切って交流を始めてみると、皆が音楽への熱い思いを持ちながら、お互いを尊重し、良いところを認め合うとても前向きな人たちでした。Student Concert終演後は演奏について語り合い、互いの考えを率直に伝え合う時間が続きました。少しずつ緊張がほぐれ、演奏も肩の力を抜いて音楽そのものに向き合えるようになったように思います。

最終日にはソウルの街を案内してもらい、おすすめのお店やお土産も教えていただきました。国は違っても、音楽に向き合う気持ちは同じであることを実感し、音楽を通して国境を越えた友情を築くことができたことは、今回のPianoWeekで得た何よりの財産です。

今回のPianoWeekでは、作品への新しいアプローチを学んだだけではなく、自分の音楽を信じること、人との出会いによって音楽がさらに豊かになることを実感しました。この経験は帰国翌日のソロコンサートにも確かにつながり、以前よりも自分の音楽を信じて舞台に立つことができたように感じています。

このような貴重な機会をご支援くださった福田靖子賞基金の皆様、ライヒェルト先生、ジャック・ルヴィエ先生をはじめ、ご指導くださった先生方、そしてPianoWeekを支えてくださったすべての皆様に心より感謝申し上げます。この一週間で得た学びと出会いを大切にしながら、これからも自分らしい音楽を追求していきたいと思います。

<原田さん写真4>

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